大判例

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横浜地方裁判所 昭和43年(ワ)218号 判決 1972年6月26日

原告

日置善助

外六名

右訴訟代理人

増本一彦

外一〇名

被告

株式会社

村山商店

右代表者

村山捨吉

右訴訟代理人

阿部民次

外三名

主文

一、原告らが被告に対し、いずれも従業員たる地位を有することを確認する。

二、被告は原告らに対し、それぞれ別紙目録(一)(イ)欄記載の金員および昭和四三年二月以降毎翌月七日かぎり一カ月につき別紙目録(二)(イ)欄記載の割合による金員を支払え。

三、原告小林良助、同佐藤掃之、同池川精二、同昼八紀昭、同古川英雄のその余の請求をいずれも棄却する。

四、訴訟費用は被告の負担とする。

五、この判決は第二項にかぎり仮に執行することができきる。

事実《省略》

理由

一、被告は港湾荷役の請負等の業務を目的とする株式会社であり、原告らが村山五組と称され、被告会社従業員として横浜営業所に勤務し、港湾荷役の職務に従事していたこと(原告らの請求原因および主張第一項の事実)および被告が原告古川英雄を除くその余の原告らに対して昭和四二年三月二三日、原告古川に対して同月二五日解雇の意思表示をしたこと(同第二項の事実)はいずれも当事者間に争いがない。

二、原告らは本件解雇の意思表示は、被告が原告らに対してなした不当違法な転勤命令を原告らが拒否したことを理由になされた無効なものである旨主張するのでまずこの点について判断する。

原告らが昭和四二年三月一五日横浜港内に碇泊中の土佐春丸船上において荷役作業に従事したことは当事者間に争いがないところ、<証拠>を総合すると、つぎの事実が認められる。

土佐春丸は昭和四二年三月一五日午前八時ころ米国ロスアンジェルスからの直行便として、横浜港二四番ブイに停泊し、直ちに宇徳運輸によつて荷役作業が開始され、同日午後七時から翌日午前五時までの夜間作業の一部は下請の被告会社が担当することとなつて、原告らいわゆる村山五組は同日午後七時ころから同船三番船艙において作業に従事した。原告ら村山五組の担当は同船艙おもてにおけるトラクター、金属スクラップ等の荷揚げ作業であつたが、同船艙ともでは村山八組の作業員が、同時刻に冷凍野菜等の荷揚げ作業にあたつていた。ところで村山五組は組長原告菅井、組長代理原告日置となつており、当日昼間作業にも従事したため、同日午後一二時ころトラクターの荷揚げが終るころには原告菅井は体調を悪くし、以後エンジン・ルームで休息をとり、原告日置がウオッチマンとなり甲板上に残つて、他の組員は船艙内および荷積みのための沖取船等で働き、約一時間余の食事休憩時間をはさんで、翌一六日午前一時ころから同四時三〇分ころまでは金属スクラップの荷揚げにあたつた。

ところが右スクラップに隠れて後方にカートン入りのスズコ瓶詰の荷があり、スクラップ荷揚げ作業の影響でこれがくずれ、カートンの包装が破れたが、この荷は神戸、大阪への揚げ荷であつたため、横浜港での荷揚げの対象とはなつていなかつた。午前五時原告ら村山五組の者は同日の作業を終えて通船により上陸し、それぞれ休養のため自宅等に戻つた。ところで右土佐春丸の荷揚げ作業中は、盗難、災害等の監視役として二人のチェッカーが同船に乗船しており、その監視にあたつているほか、訴外杉山良一も宇徳運輸からの現場監督として同日午前五時ころまで乗船していたが、その間スペシャル・ロッカーで被告会社の従業員と目される作業員が、積荷のフルーツ缶詰を食べているのを発見して注意を与え、さらに同日午前宇徳運輸に出社して右事情を同社の担当者である船内荷役事業の労務課長下山高等に報告した。さらに同人には同じころ土佐春丸の船内監督島田から同船の積荷のスズコが盗難にあつたことおよび被告会社の従業員がやつたらしいとの電話連絡があり、右下山は直に被告会社第二営業部長各務安近を宇徳運輸に呼んでその間の事情を説明した。右各務は原告菅井を被告会社事務所に呼び寄せ、右盗難事故の真否を尋ねたところ、同人は前記のとおり体調を悪くして休息していたため、その間の事情は分らないとしながらも、うちの組の者がやつたのかも知れないとの趣旨のことを述べ、組の者に聞いてみるとのことであつた。同人は原告日置、同小林等に電話等で連絡し、再び同日午後三時ころ被告会社事務所におもむいたが、すでに同所掲示板にはスズコおよび缶詰をとつた者は解雇する旨の掲示がなされていた。原告菅井らは各務および被告会社労務担当の横浜営業所所長代行浦城長一等から右盗難事故を起したのは原告ら村山五組の者に相違ない旨申し向けられ、かつ右のような掲示がなされているところから原告佐藤方に原告古川を除く殆んどが集まり協議をし、同日夕方から右事務所内において各務、浦城等と会つて話し合つたが、原告らが盗難には関係ないことを主張して双方が水掛論となり、その席上浦城から責任者を出せば話はなかつたことにする旨の話が出され、原告小林は自己が村山五組の安全推進委員として盗難、災害等の防止に責任を有しているところから、自ら「自分が食べた」旨述べた。そこで浦城等は同日午後二時ころ宇徳運輸先崎部長代理から盗難事故について厳重注意を受け、村山五組に宇徳運輸の下請作業を担当させては困るとの申し入れがなされていたこと、さらに被告会社横浜営業所の作業量の殆んど一〇〇パーセントが宇徳運輸の下請作業である等の実情を考えて、原告ら村山五組全員を被告会社川崎営業所へ転勤させることとし、原告らと交渉をはじめたが、原告らは右のような事情から原告小林が食べた旨述べたものであつて、缶詰、スズコ共にその盗難等には原告らは一切無関係であること、さらに川崎営業所へは原告らのため通勤バスを用意すべき慣行があるのにこれをしない等を理由として右転勤の申し入れに応じなかつた。原告らは被告会社からの同月二三日(原告古川に対しては同月二五日)原告古川を除くその余の原告らに対する最終的な申し入れによる転勤命令をも拒否したので、被告会社は結局理由のない拒否として本件解雇の意思表示がなされるに至つた。

しかしてその間被告会社は各務、浦城を通して原告らとの間に同月一七日、一八日等に話し合いを持ち、川崎営業所に転勤となつても横浜営業所に来ることがあること等を述べて個別に説得はしたが、その中心はあくまで盗難事故に関係があるか否かの問答が大部分を占めていた。以上の事実を認めることができ、<証拠判断省略>

三以上の認定事実によれば、被告は原告ら村山五組の者が土佐春丸船上の積荷のスズコ、缶詰を盗んだものであることを前提とし、これに連帯責任を負わせて本件転勤命令を出したものであること明らかなところ、はたして原告らが被告主張のとおり盗んだものであるか否かについては前記認定のとおり本件全証拠によつても断定し得ず、しかも原告らに対し本件転勤命令をなすについて、原告らの労働条件が変るにも拘らずその理由、必要性等を十分に説明し、納得させるような行為をなさず、専ら全員を一括して転勤させることのみ主張して原告らに対処し、本件転勤命令をなしたものであつて、なるほど被告会社横浜営業所の作業量の略一〇〇パーセントは宇徳運輸の下請であつて、被告会社には宇徳運輸から村山五組の者は宇徳運輸の下請として依頼する作業に従事して貰つては困るとの申し入れがあつたことや、被告会社の規模等から考えると本件転勤命令自体が直ちに相当な事由がないものとは断定できないが、少くとも原告らに対してなされるについては、労使関係上要請される信義則を著るしく欠くものと言わざるを得ない。

四したがつて被告会社が原告らに対し、被告会社川崎営業所へ転勤するよう命じた本件転勤命令は、前記労使間の関係上要請される信義則を欠く無効なものであり、これを拒否したことを理由としてなされた本件解雇の意思表示も、解雇事由がないにも拘らずなされた違法無効なものであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告らはいずれも被告会社の従業員としての地位をなお存続しているものといわなければならない。

なお被告会社は、雇傭契約を解約告知することは当事者双方の自由になし得るところである旨、被告会社の就業規則によつても通常解雇することは制限されていない旨それぞれ主張するところなるほど解雇権は企業の合理的維持増進に必要な限度で権利の行使として是認されるものと言えるが、本件のように解雇の過程においてその方法が信義誠実に反する場合にまで自由に解雇権を行使し得るものとは認め難く、被告の主張は採用し得ない。

五、しかして原告らが被告会社横浜営業所において稼働中は、毎月一五日、二五日に当月分の賃金の仮払いを受けてこれを翌月七日清算払いする約定のもとに労務を提供してきたものであることおよび被告が本件解雇の意思表示をなした昭和四二年三月二三日(ただし原告古川英雄のみ同月二五日)以降原告らの就労を拒否していることは当事者間に争いがない。そこで原告らの賃金額について検討するに、原告らが原告ら主張の賃金額の賃金を得ていた旨の十分な立証がなく、被告が月平均賃金額として認める別紙目録(二)(イ)欄記載の範囲を当事者間に争いのない額として採用するほかはない。したがつて被告は原告らに対し、本件解雇の意思表示がなされた後である昭和四二年三月二六日以降同四三年一月三一日分まで一カ月右金員の割合による合計金として別紙目録(一)(イ)欄記載の金員および昭和四三年二月以降毎翌月七日かぎり一カ月別紙目録(二)(イ)欄記載の割合による金員を支払う義務がある。

六よつて以上の理由により右の限度で原告らの本訴請求は理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(柏木賢吉 花田政道 板垣範之)

目録省略

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